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津地方裁判所 平成3年(行ウ)8号 判決

主文

一  原告らの被告奥西に対する本件訴えを却下する。

二  原告らの被告御浜町長に対する申立2項の訴えのうち、平成元年度固定資産税(土地建物)延滞金及び同三年度二期分ないし同六年度固定資産税(土地建物)延滞金を徴収しないことが違法であることの確認を求める部分並びに同3項の訴えをいずれも却下する。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  まず、職権をもって、原告らの被告奥西に対する訴えの適否について判断する。

1  原告らは、被告奥西が本件出資当時御浜町助役であったから、違法に支出した出資金の補填義務があると主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく本件請求をするものであり、本件訴えは、右被告が助役としての職務上の行為としてなした財務会計上の行為について提起されたものと解される。

被告奥西が本件出資当時御浜町助役であったことは当事者間に争いがない。

2  ところで、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、当該財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するに至ったとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして当該権限を有するに至った者をいうと解するのが相当であるから、被告とされている者がこのような権限を有する者に該当しない場合には、その者に対する訴えは、法により特に出訴が認められる住民訴訟の類型に属しないものとして、不適法な訴えであると解すべきである(最高裁判所昭和六二年四月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁参照)。

これを本件についてみるに、被告奥西は、本件出資当時、御浜町助役として支出命令や支出等に関する本来的権限を有していたものではないし、町長等からもこれらの権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至ったとの事実も、これを認めるに足りる証拠はない(もっとも後者の点については、原告らにおいてもこれを具体的に主張しているものではない)。なお、助役は、地方自治法一六七条により「普通地方公共団体の長を補佐し、その補助機関たる職員の担任する事務を監督する」とされるが、これらは直ちに具体的な財務会計上の行為を行う権限に当たるものではないと解される。

3  よって、被告奥西は、本件出資のための支出行為等の財務会計上の行為については、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」には該当せず、同人に対する本件訴えは、法により特に出訴が認められる住民訴訟の類型には該当しないものとして、不適法な訴えというべきである。

二  本件出資の公益性(争点1(一))について

1  本件出資に至る経緯について、前記争いのない事実、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一)  パーク七里御浜の設立の経緯

(1) 御浜町は三重県の南端部の東紀州地域に位置し、大阪、名古屋まで自動車・JR東海紀勢本線でそれぞれ四時間を要する距離にある。従来柑橘類の生産を中心とする農林水産業を基幹産業としていたが、産業の沈滞とこれによる過疎化が著しく進行しており、昭和三三年当時約一万四〇〇〇人であった人口は昭和五九年には約一万人と減少し、昭和四六年には三重県から準過疎地域に指定され、平成二年四月一日には過疎地域活性化特別措置法による過疎地域に指定されている。

このような状況にあって、御浜町は、昭和五八年頃から阿田和中学校の移転に伴う跡地(御浜町所有地)の利用について、同町が熊野市と新宮市の商業の谷間にあり購買客が流出していること等に鑑み、御浜町の商業の振興と活性化に資する有効利用の方策を検討することとした。

(2) 阿田和中学校跡地利用について、御浜町がアジア航測株式会社に委託した調査や、御浜町商工会が三重県の補助事業で実施した御浜町商業近代化対策調査事業の結果を基に、御浜町は、昭和五九年七月に御浜町長、助役、収入役、町議会議員、三重県御浜町農業協同組合組合長、御浜町商工会会長等を委員とする御浜町阿田和駅前開発協議会を設置した。右協議会は、商業の集積、地場産業の育成、観光開発等を目標とする開発を検討し、御浜町はその提言に基づいてコクド鑑定調査株式会社に開発事業の計画策定を委託した。

同社は、三重大学人文学部教授伊藤達雄を代表とするプロジェクトチームを組織して調査研究を行い、昭和五九年一二月、阿田和中学校跡地利用基本計画報告書を提出した。更に、昭和六〇年一一月には、右基本計画に基づく阿田和中学校跡地利用実施計画報告書が提出された。これに伴い、御浜町でも町議会全員協議会において事業に関する討議が繰り返された。

これらの計画によれば、本件事業は、〈1〉商業振興として地元商業の活性化を図るためのショッピングセンター建設、〈2〉観光振興のため、日本百選、白砂青松百選に指定されている七里御浜海岸を中心とする海浜レクリエーション施設の創出、観光センター、リゾート型ビジネスホテル、みかん博物館の建設、〈3〉広域的視点に立った地場産業振興センターの建設、〈4〉地域住民のコミュニティ活動の場として中央公民館(総合文化センター)の建設を内容としていた。開発主体としては第三セクター方式によることとし、第三セクターが土地を町から買い受けて所有し、原則として建物施設を建設所有し、テナント方式で運営するが、ショッピングセンターの協同店舗部分は建物施設のみ協同組合に譲渡し、第三セクターとの区分所有とする。そして、右第三セクターは主にショッピングセンター部門と観光部門につき、テナントの管理業務及び建物施設の維持管理、運営業務を行う。資本の形態は、御浜町及び民間の出資とし、町は株式の過半数を所有することとされた。総事業費は二六億五二七三万五〇〇〇円とされ、資金調達計画については、資本金三〇〇〇万円、組合施設売却収入三億四四〇八万円、建設協力金収入(預かり保証金)八億一〇五九万円による自己資金合計一一億八四六七万円と、借入金一四億七〇〇〇万円の合計二六億五四六七万円が予定された。

(3) なお、パーク七里御浜設立後昭和六二年一二月に作成されたパーク七里御浜施設運営計画書は、用地取得、整備費用の増額、ホテル・レストラン棟の規模拡大と建築単価の上昇から施設建設事業費は総額三五億四〇〇〇万円とし、借入金二五億二三〇〇万円、預かり保証金六億二三〇〇万円、売却収入二億二八〇〇万円、資本金一億二〇〇〇万円、分担金四六〇〇万円をもって資金調達を行うこととした。

(二)  パーク七里御浜の設立及び事業の運営

(1) パーク七里御浜株式会社は、御浜町長を代表取締役とし、第三セクター方式で昭和六一年五月二八日に設立された。設立の際の資本金は三〇〇〇万円で、会社が発行する株式の総数は二四〇〇株、発行済株式の総数は六〇〇株であり、御浜町は一五三〇万円を出資し、株式三〇六株(出資比率五一パーセント)を取得した。他の出資者は三重御浜町農業協同組合、浦島観光株式会社、株式会社御浜窯、御浜町商工会、三重交通株式会社、熊野交通株式会社、株式会社第三相互銀行、株式会社百五銀行、近畿日本鉄道株式会社等であるが、いずれもその出資額は設立当時二〇〇万円以下であった。その後平成二年一月二六日に三重県が一二〇〇万円の出資をする等、増資がなされて同年四月二一日にはパーク七里御浜の資本金は一億六二〇〇万円となった。同社の経営管理・運営も町主導で行われた。

(2) ショッピングセンター、観光センター、地場産業振興センターは、昭和六三年六月三〇日に建設を完了したが、ホテル、レストランについては、テナントが決まらず、建設を中断した。

こうして、パーク七里御浜は、施設建設総投資額三一億五六〇〇万円余を費やして、同年七月一五日にショツピングセンター、観光センター、地場産業振興センターを擁する本件施設を開設した。地場産業振興センターは、御浜窯(地場陶芸品)等の地場産品を展示即売するとともに、その加工工程を見せる実演工房と来店客自らが製作する体験工房を設置したものであり、総てパーク七里御浜の直営である。ショッピングセンターには地元商業者による協同店舗一五店が参加し、核テナントとして従来かち同地区にあったスーパーオークワが入ったが、一二店の一般テナントのうち六店舗については家賃が高い等の問題で入店者が見つからず、パーク七里御浜の直営店舗とされた。観光センターについてもレストランが核テナントとして入店したが、一般テナント一二店のうち四店舗は入店者が決まらず、直営店舗として開業した。

(3) 本件施設計画は、折からの国、県の推進するリゾート開発計画の動向に応じたものであり、昭和六二年六月四日、本件施設は、建設省から御浜町七里御浜海岸(阿田和町)コースタル・コミュニティ・ゾーン整備計画の中核施設に認定された。また、三重県は昭和五八年第二次三重県長期総合計画において、東紀州地域を「サンベルト地域」として位置づけ、国民的、国際的な休養、保養基地として整備を図るとしており、昭和六三年七月九日、御浜町は総合保養地域整備法に基づき、三重県が実施する国際リゾート開発としての三重サンベルト構想の特定地域構成市町村に指定され、町の一部が重点整備地区に指定され、本件施設は特定民間施設に指定された。これらの整備計画等に基づいて、建設省、三重県及び御浜町により、海岸高潮対策事業、交通安全施設整備事業、海岸環境整備事業、社会教育施設整備事業(中央公民館の建設)事業、自然遊歩道整備事業等が順次進められている。

(4) パーク七里御浜の従業員は平成元年三月三一日現在で四六名であり、営業実績(同社事業報告書)を見ると、平成元年度(第四期)のショッピングセンターの集客人員が九二万九〇〇〇人、売上額が一五億三五〇〇万円で、観光センターの集客人員が二三万三〇〇〇人、売上額が三億二五〇〇万円、入り込み団体バスが三六三一台となっており、平成二年度(第五期)のショッピングセンターの集客人員が九五万七二六七人、売上額が約一五億八二〇〇万円、観光センターの集客人員が一八万三九〇〇人、売上額が約二億八九〇〇万円、団体入り込み客バス台数が三六九三台となっていた。

(5) パーク七里御浜のテナント等本件施設における事業主及び従業員数は約二〇〇名であり、うち約一一〇名が御浜町居住者となっており(但し右は平成六年九月一日現在の数字である)、御浜町における大きな雇用の場となっている。

また、本件施設の開設運営によって、地元購買者の流出が防止されたものとはいえないが、近隣市町村から購買客を吸引する効果は見られた。

さらに、昭和六三年度及び平成三年度の商業統計調査結果を近隣自治体(紀伊長島町、海山町、紀宝町等)と比較すると、近隣自治体では小売業の商店数が減少しているところ御浜町では増加しており、従業者数は、昭和六三年度に四三九人であったところ平成三年度には五三七人と大きく増加し、年間販売額も四二億円余であったところが六五億円余と約一・五倍に増加し、近隣自治体と比べて増加率が大きいことが示されている。

本件施設は昭和六三年七月に開業しており、当時他に御浜町に商業の振興に寄与するような変化があったことは窺われない。したがって、平成二年当時認められたこれらの変動は、主に本件施設の開設に起因するものといえる。

(三)  パーク七里御浜の経営悪化等

(1) 合計一〇店舗が直営店となったことによる家賃収入の減収や設備投資、ホテル・レストラン棟の建設が中断されたことによる工事進行分の投資額・家賃収入の減収、町主導型であることによる経営の経験不足や人事管理の不手際等の要因での直営店の赤字経営、不採算部門である地場産業振興センターの負担等のため、開設後まもなくパーク七里御浜は経営状態が悪化した。

(2) そこで、平成元年五月に三重県に対し中小企業経営活性化指導を依頼し、同年一一月診断勧告を受けた。右診断勧告は、「パーク七里御浜は計画当初から地域センターとしての不動産投資の過大、建設資金の借入金依存、テナント保証金の過少、地場産業振興センターという不採算部門の設置、売場面積の過少(バックヤードや通路等非収益面積の過大)等の問題を内包し、適正な企業経営は難しいと予測されていた。」と述べ、「〈1〉ショッピングセンター、観光センターは核店舗を中心とする独自の運営を行い、地場産業振興センターは御浜町が運営し、パーク七里御浜はディベロッパー機能又は不動産賃貸業に専念する。〈2〉テナントに対し、家賃の値上げ、テナント保証金の増額を要請し、協同組合に対しては入口通路等の共通面積部分の家賃負担を要請し、大口債権者に対しては金利や借入元本の棚上げ、一部切捨てを要請する。〈3〉パーク七里御浜としては、家賃の値上げ幅を抑えるため売り場面積の見直しをし、業種構成の適正化及び販売促進等の営業努力をする。」旨の経営改善勧告を行うというものであった。また、右勧告は、経営改善を進める上での留意事項として、「パーク七里御浜の設立の経緯、三重県が推進しているリゾート開発における重要拠点の一つであること等から、単に経営上の判断のみで対処することはできず、早期に御浜町、出資者、債権者、出店者及び関係機関に再建についての支援の要請を行う必要がある。もし、この支援体制が得られない場合は、損失の増大を防止するために早期に和議申請、会社更生の手続をとることが重要である。」旨指摘していた。

(3) なお、御浜町は、平成元年二月二八日及び同年三月一日、パーク七里御浜が同日付で施設建設資金を借り入れた借入先である株式会社日本興業銀行外二五行の銀行と三重県信用農業協同組合連合会外一連合会に対し、元本合計一三億一〇〇〇万円につき、損失補償契約を締結した。

(四)  経営改善計画(再建計画案)について

(1) 三重県の経営診断結果を受けて、パーク七里御浜は、御浜町商工会事務局長、御浜商業協同組合関係者、テナント関係者等からなる「経営改善計画策定幹事会」を設置し、右幹事会は関係者の協力が得られなかった場合の和議申請も含めて検討し、債権者に対する金利の引下げを要請し、テナント等に建設協力金や家賃の改定について協力を求める等、関係者の協力を得るための交渉を行いながら、経営改善計画案を策定した。右策定過程においては、度々御浜町議会全員協議会等に提案を行い、その審議を経て再検討が加えられ、平成二年八月に経営改善計画が策定された。

(2) その内容は、概ね以下のとおりであった。

すなわち、県に対し、平成二年度の御浜町に対する市町村振興資金六億円の貸付けと同三年度以降の地場産業振興センターの賃貸料一五〇〇万円を助成することを要請し、また、自己資本が過少で借入金の金利負担が増大していたので、低収益施設の施設投資額の補填のためにも金利負担のない資金を確保するべく、御浜町に対して本件出資を求めると共に、平成六年度以降も二六五〇万円の出資を求め、本件出資金を借入金の繰上償還に当て、財務内容の改善を図ろうとした。この計画によれば、平成二〇年度において建設当初の借入金はすべて償還されることとされていた。

また、三重県の経営診断勧告に副って、施設運営の分離、直営店の廃止、平成二年三月に閉鎖された地場産業振興センターを御浜町及び近隣市町村の共同運営として平成三年四月に紀南地域活性化センターを開設するなどの改変が図られることとなった。

(3) そして、平成二年八月二四日開催の御浜町議会臨時会で本件出資金を含む予算案の決議を経た後、同月二九日パーク七里御浜は取締役会で右経営改善計画を承認した。

(五)  本件出資金の支出について

当時の御浜町長は、平成二年八月二四日に開催された御浜町議会臨時会に、パーク七里御浜に対する本件出資金の支出を含む一般会計補正予算案を提出した。右予算案は、六億円を三重県からの振興事業貸付金として証書借入又は証券発行の方法で起債し、また、三億五五〇〇万円を財政調整基金を取り崩して繰り入れ、これらをパーク七里御浜に対する出資金として支出することを内容とするものであった。議会では原告らなどの反対意見も出されたものの、審議の結果、右予算案は可決された。

右可決された予算に基づいて、平成二年八月三〇日に三億五五〇〇万円、同年九月一四日に六億円の合計九億五五〇〇万円がパーク七里御浜に対する出資金としてそれぞれ支出された。

したがって、御浜町の取得株式は、昭和六三年三月三一日現在では二九六株(設立当時の取得株式のうち一〇株を株式会社御浜窯に譲渡したため、出資金一四八〇万円、出資比率四九・三パーセント)となっていたが、平成元年三月三一日現在では発行済株式二四〇〇株のうち一一九〇株(出資金五九五〇万円、出資比率四九・五八パーセント)、平成二年三月三一日現在では一一九〇株(平成二年二月に二四〇株の増資があり、増資分は三重県が取得したため、出資比率四五・〇八パーセント)、平成三年三月三一日現在では発行済株式二万三二九〇株のうち二万〇二九〇株(前期に比べ二万〇六五〇株増資され、一株五万円で御浜町の出資金一〇億一四五〇万円、出資比率八七・一二パーセント)と推移した。

2  以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

原告らは、普通地方公共団体の行う出資について、普通地方公共団体が行う寄付又は補助に関する地方自治法二三二条の二の規定が類推適用される旨主張する。しかし、同条にいう寄付又は補助とは、反対給付を求めない一方的な出捐を指すと解されるから、本件のような株式会社形態の第三セクターに対する出資を同条の定める寄付又は補助と同様に解することはできず、同条の類推適用の根拠を欠くものである。けだし、出資者は出資額にみあう株式を取得するからである。

もっとも、出資も普通地方公共団体の行う支出である以上、公共性ないし公益性の認められないような支出は地方公共団体存立の基本理念に反し(地方自治法二条二項、三項、一二項、地方財政法三条、四条参照)、許されないというべきである。そして、当該出資金の支出が公共性ないし公益性を有するものといえるか否かについては、究極には当該区域住民の民意に存立の根拠を置く当該地方公共団体の担任機関が、当該地方公共団体の置かれた地理的、社会的、経済的事情や特性、他の行政政策との関連等を総合的に考慮した上で判断することが、地方自治の精神に合致するものである。したがって、出資の適法性の判断は当該地方公共団体の担任機関の裁量に委ねられているものというべきであり、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱し又は濫用するものであると認められる場合にのみ違法となるものと解するのが相当である。

原告らは、株式会社形態の第三セクターに対する出資は特に厳格に公益性が判断されるべきである旨主張するが、以上に述べたところからすれば、株式会社形態の第三セクターに対する出資を特に制限しなければならない理由はなく、原告らの主張は採用できない。

3  そこで本件出資金の支出が公共性ないしは公益性を有するものかどうかを検討する。

前記認定のとおり、パーク七里御浜の本件事業は商業等産業の衰退や過疎化が進む御浜町にとって、商業を中心とする産業振興の期待を担い、集客、雇用の場の創出等一定の効果を挙げていたと解されること、右事業は計画の立案過程、設立の経緯、他の団体・企業の参加状況等から明らかなように専ら御浜町の主導によって、株式会社方式で実施されたものであるが、当初から事業費に比して自己資本が過少であるという問題を有しており、いずれ増資をしてこれを改善すべきものであったこと、平成二年八月には右事業の経営状態が相当悪化していたこと、仮にパーク七里御浜が倒産すれば、御浜町自体が一三億円を超す損失補償債務の履行を余儀なくされるおそれが強かったこと、本件出資当時、経営改善計画が委員会等で審議された後に策定されており、これを実施することによって経営状態が改善することが期待されると御浜町が判断したこと、本件出資金を支出することについて御浜町議会の審議及び議決を経ていたこと等の事情があったものである。

確かに、本件施設計画については、当初大規模な計画を立てながら工事着手後に建設の一部中断をせざるをえなくなったり、予定しなかった直営店を多く抱えることになったり、管理運営に経験ある人材を確保できていなかった等種存の問題があったことが窺われ、こうした計画の甘さによって経営悪化が招来されたものとも推察されるところではあるが、だからといって右事業が公益性のないものと直ちにいえるわけではない。前記の事情を考慮すれば、本件出資金を支出することが、公共性ないし公益性を有するものであるとの御浜町の判断は、著しく不合理で裁量権を逸脱し又は濫用するものであったということはできない。

4  原告らは、パーク七里御浜が地場産業振興センターの運営も放棄した以上その事業に公益性はないと主張するが、施設の維持管理を専らとするからといって当該事業に公益性がないというものではない。被告らの主張するように、紀伊半島の南東部に位置し大都市から遠く、高速交通網も未整備であるという地理的経済的立地条件等から民間企業の誘致が難しく、かつ地元業者の保護も図らなければならないといった条件の下で、町の商業の核となる施設を維持管理し、また、地場産業振興センター(紀南地域活性化センター)という非営利的な施設の運営を可能ならしめるよう事業運営を行うことは、一般に当該地域にとって産業振興のため公益性を有する事業であると共に行政の主導で行わざるをえない面があるというのも理解できないではない。

また、原告らは、本件出資当時パーク七里御浜は倒産状態で再建の見込みがなかったから、これに対する出資は公益性がないとも主張し、同社の経営改善計画に対する意見書(〔証拠略〕)を提出する。しかし、経営改善計画について、何らかの不備があったり一部実現できなかったものがあるからといって当然に当該会社が再建の見込みがないといえるものではない。そして、右意見書に対してはこれを批判する意見書(〔証拠略〕)も提出されているところであり、これらの意見書と併せて当時のパーク七里御浜の経営状況、債権者やテナントの交渉状況及び社会一般の経済情勢等に照らして、右経営改善計画を見れば、本件出資当時において、右経営改善計画が明白に実現不可能なものであってパーク七里御浜に再建の見込みがなかったと断ずるに足りるものではない。

したがって、なるほど前記争いのない事実記載のとおり、パーク七里御浜が設立以来赤字が続いており、平成三年三月末日の時点で借入金残高は一八億八三九二万円余、平成二年度の累積赤字は五億二九五五万円余であったことは認められるものの、前述の事情や当時の経済情勢等に鑑み、本件出資金の支出が妥当であるとした御浜町の判断に著しい裁量権の逸脱又は濫用があると認めることはできないものである。

5  よって、原告らの右主張は採用できない。

三  財政調整基金の取崩しが地方財政法四条の四第三項に違反するか否か(争点1(二))について

1  原告らは、「経費」とは地方公共団体の経費であって本件出資はこれに含まれないと主張する。しかし、地方公共団体はその予算の中で、他の団体に対する出資をなしうるものであって、そうした投資的経費も地方財政法四条の四第三項から特段除外されているものと解する理由はない。

2  そうとすれば、本件出資が地方財政法四条の四第三号後段に定める「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」といえるかどうかが問題となる。

同条は、地方財政の運営の健全性を確保し、もって地方自治の発達に資することを目的とする同法の趣旨に基づき、長期的な視野に立った経費の財源とすべく設定される積立金(同法四条の三)について、処分しうる場合を制限的に列挙したものである。右のような本条項の趣旨からすれば、同法四条の四第三号後段の「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」とは、支出をしようとする事業の種類等を特に限定するものではないが、前段にいう「緊急に実施することが必要となった大規模な土木その他の建設事業の経費」と同等の緊急性と必要性が認められる場合でなければならないと解される。もっとも、その必要性等の判断は、当該地方公共団体が置かれた歴史的な具体的な諸事情や、現実に直面している行政課題等の関連を総合的に考慮するべきものであり、第一次的には、地域住民の民意に根拠を有する地方公共団体のそれぞれの機関の裁量に委ねられたものとみるべきであって、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱し又は濫用していると認められる場合にのみ、当該基金を取り崩した公金の支出が違法となるものというべきである。

これを本件についてみるに、前述のとおり、パーク七里御浜の事業は商業等産業の衰退や過疎化が進む御浜町にとって、商業を中心とする産業振興の期待を担い、一定の効果を挙げていたと解されること、右事業は専ら御浜町の主導によって株式会社方式で実施されたものであるが、当初から自己資本が過少であるという問題を有していたこと、平成二年当時右事業が経営悪化しており、早急に対策が図られる必要があったこと、仮にパーク七里御浜が倒産すれば、御浜町自体が一三億円を超す損失保証債務の履行を余儀なくされるおそれが強かったこと、本件出資金を財政調整基金を取り崩して出捐することについて、御浜町の担当者が県の地方課の指導を受ける等した上で御浜町議会に提案し、その審議及び議決を経たこと(〔証拠略〕)等の事情があったものである。そして、〔証拠略〕によれば平成二年度当初三億六七四七万二〇〇〇円であった財政調整基金は本件出資金のために三億五五〇〇万円が取り崩されたが、同年度に更に一億一四〇一万七〇〇〇円が積み立てられて平成三年度当初には一億二六四八万九〇〇〇円となり、同年度に一億九九五五万九〇〇〇円が積み立てられて平成四年度当初には三億二六〇四万八〇〇〇円となっていること、御浜町においてはその他に平成二年度の時点で減債基金、町有林等整理基金、奨学基金、土地開発基金等の基金が積み立てられていたことが認められ、財政調整基金等の積立金の運営の健全性の確保という趣旨は損なわれていないものといえる。

以上の事情を考慮すれば、本件出資金が地方財政法四条の四第三号後段にいう「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」に該当するとした御浜町の判断が著しく不合理であり、裁量権を逸脱又は濫用したものであると認めるには足りず、被告芝の支出行為が財務会計法規上の義務に違反したものとはいえない(なお、仮に被告奥西に対する本件訴えが適法といえるとしても、以上に述べたところは同様である)。

3  したがって、原告らのこの点の主張も理由がない。

四  以上、本件出資金の支出には違法性が認められない。また、御浜町は本件出資金の対価としてこれに相応する株式を取得したものであるから、本件出資金の支出によって直ちに損害を被ったものともいえない。

よって、原告らの被告芝に対する請求は理由がない。

五  原告らの被告御供町長に対する訴えが監査請求前置等の要件を充たすか否か(争点2(一))について

1  地方自治法二四二条が定める監査委員に対する監査請求は、地方公共団体の職員の財務会計行為の違法不当をまず当該自治体の自治的、内部的処理によって予防、是正することを期待するものであり、同法二四二条の二第一項は、右監査請求に対する監査委員の監査の結果等に不服がある住民は、同条項一号ないし四号の定める請求をすることができるとするものである。

よって、監査請求前置の要件を充足したというためには、監査請求と住民訴訟の対象事項の同一性が必要であるが、何が監査請求の対象とされているかは、要求されている措置の内容に限定されず、請求の趣旨、理由等請求書全体の記載から合理的に理解されるところによるのが相当である。

2  これを本件についてみるに、〔証拠略〕によれば、原告らが提出した平成三年七月一日付「監査請求の要旨」には、本件出資金の支出につき、「この出資は、地方自治法第二三二条の二の寄付又は補助に当たり、その支出には公益性を必要とするが、パーク七里御浜株式会社は営利を目的とした一企業体であり、その企業活動に公益性は認められない。また、この支出の財源として、御浜町財政調整基金条例に基づく積立金から三億五五〇〇万円を取り崩し一般会計に繰り入れているが、本来財政調整基金の支出は地方財政法四条の四及び御浜町財政調整基金条例に規定されており、一民間企業の支援のために支出できるものではないことは明らかである。さらに、九億五五〇〇万円の出資の根拠となったパーク七里御浜株式会社に対する再建計画では、平成二年度以降の固定資産税はすべて一〇年間分割払いにすることを前提とした再建計画書になっている、このような計画は地方税法に照らしても違法であり、違法を前提としての再建計画は成り立たないものである。以上の点から、パーク七里御浜株式会社への出資を目的とする支出は、違法且つ不当な支出に当たるので、この支出により御浜町に与えた損害を補填する必要な措置(損害賠償)を講ずるよう請求する。」と記載され、右の添付書類である「事実証明書」には「パーク七里御浜株式会社への出資額とその内容」と題して、「〈4〉 パーク七里御浜株式会社の再建計画では租税公課の内、固定資産税は平成二年度分以降すべて一〇年分割支払いの再建計画となっている。さらに、平成二年度及び三年度もパーク七里御浜株式会社は、法に基づく猶予申請をしておらず、このような固定資産税の支払い方法を行政が認めることは地方税法第一四条及び一五条に明確に違反する行為である。」と記載されていることが認められる。また、これに対する同年八月二六日付監査委員の監査の結果には、請求を理由がないものと判断する理由として、「三 御浜町がパーク七里御浜株式会社へ課税した平成元年度以降の固定資産税は、地方税法第一四条の規定は未だ適用の状況になく、同法第一五条の適用はされていない。」と記載された部分があることが認められる。

3  前記認定事実によれば、監査請求の要旨には固定資産税の一〇年間分割納付はパーク七里御浜の再建計画の内容として述べられているだけであって、右監査請求の要旨から判断すれば、「本件出資を目的とする支出」のみを対象とするものとも解される。しかし、監査請求添付書類中の記載を併せてみれば、「平成二年度及び三年度にパーク七里御浜株式会社は法に基づく猶予申請をしていないにもかかわらず、徴収権者である御浜町長がパーク七里御浜に対し、固定資産税の納付を一〇年間分割払いとすることを認めることは地方税法第一四条及び一五条に違反する。」との指摘があると解することができ、これは平成二年度及び三年度の固定資産税のうちパーク七里御浜が納期限までに納付しなかった分について、被告御浜町長が徴収猶予をしたと主張し、その違法を問う趣旨と解する余地がある。本件監査の結果も、パーク七里御浜の納付すべき固定資産税に対する徴収猶予の有無について監査を行ったものと解することが可能である。

したがって、原告らの本件監査請求は、パーク七里御浜の納付すべき固定資産税に関して、平成二年度及び三年度に被告御浜町長が地方税法一五条の規定に違反する徴収猶予をしたと主張し、これが「公金の徴収を怠る事実」(地方自治法二四二条一項)にあたるとして、監査請求の対象としたものとみることができる。

4  そうすると、原告らが被告御浜町長の行為について指摘したと見られる本件監査請求は、平成二年度及び三年度の固定資産税に関して問題にする趣旨と合理的に理解されるところがあって、平成元年度及び同四年度以降の固定資産税については右監査請求の対象とされていないものというべきである。

また、弁論の全趣旨によれば、本件監査請求当時、平成三年度二期分以降の固定資産税については納期限が未到来であったことが認められるところ、地方自治法二四二条一項は「違法若しくは不当に公金の徴収を怠る事実があると認めるときは」監査請求をなしうるものと定めるが、ここにいう「公金の徴収を怠る事実」とは既に具体化した徴収権の不行使をいうものであって、現実に租税債権、徴収権が発生するか否かが確定していない将来の公金の徴収を怠る事実について予防的に監査請求をなしうるものとする趣旨とは解されない。

そうすると、本件監査請求の対象となっているとみることができるのは既に徴収権が発生していた平成二年度及び同三年度一期分の固定資産税に関する徴収を怠る事実であると解するのが相当である。

5  以上のとおりであるから、原告らの申立2項及び3項の本件訴えのうち、同2項の平成二年度及び同三年度一期分固定資産税の延滞金の徴収を怠る事実を対象とする部分は、同一の事実につき監査請求を経たものと解することができ、適法であるが、その余の部分については監査請求を経たものと認めることはできず、不適法であるから却下すべきものである。

六  原告らの申立2項の訴えのうち平成二年度及び同三年度一期分の固定資産税の延滞金の徴収を怠る事実が違法であることの確認を求める訴えにつき、以下その請求の当否を検討する(争点2(二))。

1  前記争いのない事実、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一)  平成二年度及び同三年度一期分の固定資産税(土地建物。以下「本件固定資産税」という)の課税額及び納付状況等は、別紙「パーク七里御浜株式会社に対する固定資産税の納付状況」に記載のとおりである。

パーク七里御浜は、終始滞納分につき納付の意思を示していたが、経営状態が悪く、平成二年八月には租税公課は一〇年間での分割納付とする旨の内容の経営改善計画案(「パーク七里御浜の再建計画案について」と題する計画案)を策定し、ほぼこれに基づいた一部納付をしていた。

平成七年八月二九日には、パーク七里御浜は平成六年度までの固定資産税(土地建物)本税未納分五三九二万三五三四円を納付したが、延滞金の納付はされていない。また、平成七年度の固定資産税(第四期分の納期が平成七年一一月三一日である)については、平成八年二月二二日に本税全額と督促手数料分が納付された。

(二)  パーク七里御浜に対しては、各納付期限が経過した分の固定資産税について随時督促状が送付されている(平成二年度一期分につき同年六月五日付等)。右督促状には、納期限の翌日から納付の日までの期間に応じ税額一〇〇円(一〇〇円未満の端数は切り捨てる)につき、年一四・六パーセント、督促状を発する前の期間及び督促状を発した日から起算して一〇日を経過した日以前については、年七・三パーセントの割合で計算した金額の延滞金が生ずることが記載されている。また、年二回程度、同社の固定資産税の未納額を記載した催告書も送付された。

(三)  本件固定資産税延滞金について、パーク七里御浜の財産に対する差押えはなされていない。

2  以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

本件訴訟の対象は、現在、被告御浜町長が平成二年度及び同三年度一期分の固定資産税(土地建物)の延滞金の徴収を違法に怠る事実が認められるか否かであるところ、前記認定事実によれば、被告御浜町長は納期限を過ぎた固定資産税についてはその都度滞納全額につき督促状を発して徴収権を行使し、年二回程度催告をする等して納付を促しているものであり、かつパーク七里御浜から一部納付を受け、徴収権が消滅時効にかからないような手続をとっているものということができる。

したがって、被告御浜町長がパーク七里御浜に対して地方税法一五条にいうところの法律上の徴収猶予処分をしたものとは認められない。

なお、原告らは、被告御浜町長が一〇年分割納付を認め、もって徴収の猶予をしたものである旨主張するが、そもそも、仮に徴収権者が将来の徴収権の行使に関して、法の手続によらずにこれを猶予する旨の約束をしても、何ら法的効果を生じるものではない。加うるに、本件において、「パーク七里御浜の再建計画案について」と題する計画案はパーク七里御浜が作成したものであって、被告御浜町長が同社の代表取締役であるといっても、御浜町長として何らかの行政上の措置をとったものと直ちにいうことはできない。また、原告らが指摘する平成二年八月二四日御浜町議会臨時会における御浜町助役の発言にしても、同じく右臨時会で税務課長が、猶予を認めるものではないとしたうえで、実際に納税者たるパーク七里御浜に一部納付しかできないと相談されればそのような納付をせざるをえないとの趣旨を説明していることを併せてみれば、御浜町が徴収猶予処分をしたものとは解することができない。したがって、前記認定を左右するものではない。

3  また、原告らは、パーク七里御浜の財産に対する差押えをしないことは地方税法三七三条一項に違反し、このことからも被告御浜町長が地方税の徴収を怠っているものといえる旨主張する。

しかしながら、そもそも地方税法は租税法律主義に基づき課税権の主体としての地方公共団体と納税者としての住民との間の租税に関する法律関係を規制するものであるところ、右三七三条一項も、市町村吏員に対して、督促状を発して一〇日以内に徴収金を完納しない滞納者の財産を差し押さえる権限を与えたものであるが、滞納者に対して滞納処分を行う対象や時期については、一方では、個々の滞納者の担税力や誠実なる納入意思の有無に応じてその事業の継続や経済生活の維持がむやみに損なわれることのないよう配慮しながら、他方では、公平を欠き、偏頗な徴税行為であるとの非難を受けることのないよう、計画的、能率的かつ実質的にその徴収権の確保を図るに相当な範囲での裁量が与えられているものといわなければならない。地方税法一五条の五が、滞納者が徴収金の納付について誠実な意思を有すると認められ、かつその財産を直ちに換価することにより事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあり、換価を猶予することが、直ちに換価するよりも滞納にかかる徴収金及び最近に納付すべきこととなる徴収金の徴収上有利であるときには、換価の猶予のために必要だと認められれば、地方団体の長は、差押えにより事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがある財産の差押えを猶予することが、二年を超えない範囲でできるものとしているのも、この観点に立った規定であると考えられる。

したがって、固定資産税の滞納分に対する督促状を発してから一〇日以内に差押えがされないからといって、当然にこれが地方税法に違反するものとはいえない。そして、差押え等滞納処分を取らないために実質的に公金徴収権が失われるような場合には、裁量を逸脱し、徴収金の徴収を違法に怠るものといえるが、徴収権が未だ実質的に害されていないような場合には、徴収を怠るものとはいえないというべきである。

本件固定資産税については、前記に認定したとおり、固定資産税のうち本税分が平成七年八月二九日に全額納付され、延滞金のみが未納となった状態において、右納付の事実とその後の固定資産税の納付状況からしてパーク七里御浜に納付の意思があると認められ、差押えをしなくても納付がなされることが見込まれるといえる。さらに、〔証拠略〕によれば、パーク七里御浜の所有不動産には本件固定資産税に優先する相当額の抵当権が設定されていること、それ以外の財産としては、同社の主たる収入である家賃債権しかなく、これを直ちに差し押さえれば同社の事業の継続を困難にするおそれがあることが認められる。そうすると、差押えを猶予することによって、直ちに差押えや換価をするよりも徴収金の徴収上有利となるものと認められるというべきである。

これらの事情を勘案すると、本件において、パーク七里御浜の財産について差押えをしていないからといって、直ちに「違法に公金の徴収を怠る事実」が認められるものではないと解するのが相当である。

4  以上のとおり、平成二年度及び同三年度一期分の固定資産税の延滞金について、被告御浜町長がパーク七里御浜に対し徴収を猶予したものとは認められないし、現在パーク七里御浜の財産に対する差押え等をしていないことは、未だ徴収権限の裁量を逸脱していると認めるに足りるものではなく、延滞金の徴収を違法に怠るものとはいえないというべきである。

5  よって、原告らの被告御浜町長に対する本件請求は理由がない。

七  よって、原告らの被告奥西に対する申立1項の訴え、被告御浜町長に対する申立2項の訴えのうち平成元年度及び同三年度二期分ないし同六年度の固定資産税延滞金の徴収を怠る事実が違法であることの確認を求める訴え並びに被告御浜町長に対する申立3項の訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下し、原告らの被告芝に対する請求並びに被告御浜町長に対する申立2項の訴えのうち平成二年度及び同三年度一期分の固定資産税延滞金の徴収を怠る事実が違法であることの確認を求める請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大津卓也 裁判官 新堀亮一 池町知佐子)

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